肛門腺炎
治療症例
肛門腺炎
1.肛門腺とは、肛門の左右両脇に一対存在し、臭いを持つ分泌液を貯留させる袋状の組織です。肛門の左右4時と8時方向に導管が開孔して、興奮時や排便時などに分泌液を出す構造になっています。しかし、肛門腺に炎症が起ると、うまく分泌液を排出できなくなり、肛門周囲が腫れて、痛みを伴ったり、重症化すると破裂して皮膚に穴が開いたりする場合もあります。
【診察】
患者さんは9歳齢のキャバリアでした。肛門腺の慢性的な炎症の影響で貯留液がドロドロした性状になり、また導管が炎症で細くなってしまい、ほぼ自力での排出ができなくなっていました。
定期的に病院での肛門腺しぼりと抗生物質や消炎剤の治療を行っていましたが、病院でもかなり肛門腺を絞ることが困難で、その際本人も痛みを伴う状態が続いたため、飼主様に肛門腺の摘出手術をお勧めし、手術を行いました。
【治療】
肛門周囲の皮膚を切開し、左右の肛門腺を引っ張り出して切除します。この際肛門腺は肛門を閉める機能を持つ肛門括約筋の間に存在しているため、摘出時にこの筋肉や支配神経を傷つけないように慎重に摘出します。
肛門括約筋を傷つけると手術後に肛門の緩みが起り、排便障害が起こることがあります。
【経過】
術後は縫合した部分の経過も良好で、肛門の機能も問題ありませんでした。
【考察】
今回の症例は慢性的な肛門腺炎により肛門腺が排出しにくくなってしまった患者さんでした。肛門腺炎は初期症状としてはお尻を床にこすり付けたり、自分のお尻を気にしてグルグル回るなどの行動が見られることもありますが、症状がわかりにくいことも多く、重症化してしまい、破裂してから来院されるケースも多くあります。抗生物質の内服や洗浄処置を行い、一回直っても再発を繰り返すことが多くあります。これらのような慢性化してしまった場合や、破裂を繰り返す場合には肛門腺摘出手術を行うと再発もなく、完治することができます。症状に併せて手術のメリットとデメリットを考慮して治療計画を立てる事が重要です。